抑うつの測定方法(2)

抑うつ評価尺度とは、抑うつ症状を評価するための物指しである。抑うつ評価尺度は、いくつかのうつ症状に関する質問項目と、その答えの選択肢からなる。そして選択肢の答えには予めスコアが割り当てられている(項目スコア)。そして全ての項目スコアの和(総スコア)を、抑うつのレベルの指標として扱う。

代表的な抑うつ評価尺度には、CES-D(The Center for Epidemiologic Studies Depression Scale)、PHQ-9(Patient Health Questionnaire), K6(Kessler psychological Distress Scale)、HRDSハミルトン抑うつ評価尺度(Hamilton Rating Scale for Depression)、といったものがある。いずれも米国で開発されたが、その後様々な言語に翻訳され、世界中で使われている。抑うつ評価尺度は、精神科の診療のみならず、抗うつ薬臨床試験脳科学の基礎研究などに幅広く利用されている。

項目スコアは、尺度の開発者によって恣意的に決められた数値である。したがって項目スコアには等間隔性が担保されていない(順序尺度)。理数系の研究者にとっては、順序尺度の和がなぜ抑うつのレベルを反映するのか、疑問を感じる方もいると思う。この疑問は重要で、Stevensを始めとして、歴史的に論じられてきた経緯がある。 *1

一方、一般の臨床家や研究者にとって、抑うつ尺度の総スコアを抑うつレベルとみなすことは業界の常識に近い。昔から行われてきた慣習なので、疑問を持つ人はまずいない。しかし、抑うつ尺度の総スコアが本当に抑うつのレベルを反映しているかどうか(線形の関係を持つかどうか)は、根源的でかつ重要な問題と思われる。

この問題を考えるにあたって、抑うつスコアの分布の形は重要な意味を持つ。その説明はかなり長くなるし、難しい。詳しくは 正式サイトを読んでいただければと思う。

*1:Stevens, S. S. On the theory of scales of measurement. Science, (1946) 103, 677–680.